ペットショップ三大部門
ペットショップの店員さんは、小さくてかわいい犬や猫に囲まれて、楽しそうなお仕事です。
しかし、ペットショップで働くということは、動物が好きなだけでは務まらない大きな責任感を求められ、動物好きであるからこそ涙が出るほどつらい大変な仕事です。
ペットショップの仕事は、商品レジ、トリマー、生体販売の三つの部門に分かれています。その中でも、みなさんがイメージされる仕事は「生体販売」の部門の店員です。
ペット業界では、犬や猫はCA(コンパニオンアニマル)、もしくは生体と呼ばれます。
今回は、生体販売員の三大基礎作業である「消毒」「ご飯」「チェック」の作業をご紹介することにより、生体販売員の最も大きな仕事である「生体管理=犬や猫のお世話」の裏側をお見せします。
欠勤も遅刻は絶対ダメ
生体販売員は朝7時半頃には職場で仕事を始めます。
犬や猫は生きていますので、土曜も日曜も、台風も関係なく出勤します。お店の開店が10時でも、出勤時間は7時前後になります。
店舗に到着すると、犬や猫は耳が良いので、「朝だ!ご飯が来たぞー!」と騒ぎはじめます。特に柴犬の日本犬らしい遠吠えと、フレンチブルドッグの吠えるのがちょっぴり下手な高い鳴き声が、朝は特に騒がしいです。
着替えを終え、お客様から見えない犬猫生体ゾーン、「裏(と呼び、売り場のことを表、と呼びます)」へ突入です。
まずは朝ご飯です。ペットショップで扱う犬は、生後2ヶ月以上になりますが、成長が早くご飯の種類も量もバラバラです。
ペットショップにやってきたばかりの子はカリカリのフードをお湯でふやかしたものを与えます。
ふやけるまでに15分程かかりますので、その間に夜の間に犬や猫が使った毛布や一緒にお部屋に入れてあげているおもちゃを洗濯機で洗います。
犬や猫に極力触れない
「生体販売員は、犬や猫をいかに触らないようにお世話をするか」、ということが技術として求められます。
3回のワクチンプログラムが終わっていない子達は、たくさんの病気や寄生虫から狙われています。なので、できるだけペットに触れないように作業しなくてはなりません。
ペットショップの店員になる人は、犬が好きで好きでたまらない人が働いますので、生後間もない一番かわいい盛りの犬や猫をぎゅー、っと抱きしめて頬ずりしてあげたくなるものでが、それは決してしてはいけないことなのです。
また、ペットショップに遊びに来てくれる学生さんや家族連れのお客さんの抱っこの希望をお断りするのも同様の理由です。
生体販売員は、抱きしめてあげたり、撫でてあげたりできないぶん声を使います。
褒めるとき、あやすとき、落ち着かせるときは、ゆっくりと優しい声を使います。
遊んであげたいとき、元気づけたいときは高くて早口で、あだ名を呼んだり、かわいいね、いい子だね、と声をかけます。
声を使って、抱きしめたり撫でたりしているのです。
子犬に触れて愛情を与えてやれない分、他の方法でたっぷりと愛情を注ぎます。自腹でおもちゃを買って、お気に入りの子に貢ぐスタッフも少なくありません。
【ご飯】ご飯を食べない赤ちゃん犬が多い
ご飯がふやけてきたら、お皿にもっていきます。
ふやかしご飯をあげる生後間もない子たちのご飯の量は、頭の大きさを1日のご飯の必要量と考えます。
ふやかしフードを食べているうちは、ご飯の回数は1日3回必要となりますので、犬の頭部を見て、だいたい3等分にした程度の量で1回分を用意します。
歯が生えてきた子や、ご飯の食いつきが良い子は、ふやかしフードとカリカリフードを混ぜたご飯を与えます。
カリカリフードだけでも完食できるようになったら、食事を1日2回にします。量は、ドッグフードのメーカーによってフードのカロリーも変わってくるので、フードの袋に書かれた通り、体重に合わせてご飯を量って与えます。
体重の増加が少ない子犬には、ミルクの粉を振りかけて、少しでも体重が増えるような工夫をします。
生後間もない病気や寄生虫の問題から、薬を飲む子犬もいて、薬はご飯と同時に与えます。
整腸剤などでお腹の調子を整えている子や、駆虫薬を飲んでいる子、ペットショップではとにかくケンネルコフと呼ばれる咳が蔓延しやすいので、その薬を飲んでいる子など様々です。
ご飯を進んで食べてくれる子犬もいれば、そうでない子犬もたくさんいます。特に神経質な子は、自分からご飯を食べません。
ご飯は生後間もない子犬にとって1度たりとも欠かすことは出来ません。
例えば、フレンチブルドッグやダックスフンドなどは比較的食いしん坊で入荷してすぐでもご飯をよく食べますが、トイプードルやチワワなどの小さな子や、柴犬のような神経質な子は、ご飯やお皿を怖がったり、そのドッグフードが食べるものであると理解せず自分で食べようとしません。
そんな時はスタッフがご飯を口の中へ入れて食べさせています。
口の中の上奥に、ふやかしたご飯をなすりつけるようにし、口を閉じさせます。すると、犬や猫はそれをようやく飲み込んでくれます。
しかしこれは犬や猫に「食べよう」という意思が伴っていないので食べてくれたことにはなりません。
この食べさせ方を繰り返すうち、味を覚え、舌の動かし方が分かってきて、自分からご飯を食べてくれるようになるのです。
用心深い子の中には、口の中にご飯をこすり付けても舌で押し出して吐き出そうとするため、少しの間鼻の穴をふさいで呼吸をするために仕方なく飲み込む、というところまで追い込みます。
可愛そうな気がしますが、食事を一回抜くことは子犬の死を意味します。
少しでも子犬に食欲が出るように、ショップて人は様々な工夫をします。
フードの触感や匂いを変えるだけで自分からご飯に近付く子犬もいるため、ふやかしたカリカリフードに臭いの強い缶詰を混ぜることもします。
3度の食事のタイミングで最も気を遣うのが夜ごはんです。
朝ご飯は時間がかかっても営業時間中ずっと観察し、何かあれば対応してあげられるので、ご飯の食いつきの悪い子がいてもスタッフにも余裕がありますが、夜ご飯は違います。
夜ご飯は、朝昼の2回より少し量を多く与えます。ここまで夜のご飯に気を使うのには、理由があります。しっかり食べてくれなければ、次の朝には低血糖になって死んでしまうこともあるからです。
閉店時間を2時間過ぎても、全頭がお腹いっぱいまでご飯を食べるまで退勤することはできません。
子犬は時間が経つ程、眠くなり、飲み込むことに対しての拒絶も強くなります。
そんな時は流動食を用意して小さな注射器の形をした、シリンジという道具で口の奥に直接流し込む手段も使います。
ご飯を与えるたびにこの子に嫌われるかもしれない、そう思いながらも、一つの命が左右されるのだと、心を鬼にして小さな犬や猫の体に向き直るのです。
犬や猫へのご飯は、生体1匹1匹とスタッフが正面から向き合う、生体管理では命の管理とも言える部分となっています。
【チェック】スタッフ全員で詳細にチェック
生体に関する情報のチェックは、詳細で、迅速で、絶えず行われます。生体管理でチェックで重要なのは「早期発見」です。
代表的なチェックのひとつが「音」です。
生体管理をしていると、吠える声を聴いただけでどの子が吠えたのか判別できるようになります。
最もスタッフが気を配るのが、「咳」です。ペットショップで一番怖いのが、咳の感染の蔓延なのです。
小さな咳のひとつで、スタッフの動きは一気に慌ただしくなります。
コホン、と聞こえた瞬間に無線によりスタッフ間ですぐに共有され、表にいるスタッフは、咳をする仕草をしている犬がいないかガラスの向こうから目を光らせます。
同時に別のスタッフが隔離部屋を準備して、咳をした子犬を見つけ次第すぐにその部屋に移動させます。
幼い子達にとっては、風邪ですら、命にかかわる大きな病気です。
小さな命を守るためには、些細な変化に気づくためにチェックは最も重要な仕事の一つなのです。
生体販売員を続ける理由
ペットショップで働くことが、実は生体管理という命を守る仕事であり、予想以上に大変そうであることに驚かれたことでしょう。
それでも、生体販売員をやめられないのは、生体管理に携わるからこそ得られる特別な瞬間があるからです。
命ある犬達はどの子も個性的で予想外で、見ていて飽きません。
無邪気に遊んだり、眠ったり、キラキラと輝いていて、幸せの塊がそこにあるのだなあとあたたかい気持ちになります。
同じ犬種の、同じ毛色の、同じ性別の犬であっても、どの子にも違った思い出があり、その思い出の山が増えれば増えるほど、幸せを感じずにはいられないのです。
その幸せを感じる瞬間に、生体販売員の仕事の大変さもつらさも吹き飛んでしまうのです。
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